異界の海はすんごい綺麗だ。
海の底が丸見え。
珊瑚がぎっりしはえた岩や、銀色に輝く魚の群れも見える。水は透き通る様に美しい水色。
そして、その中に揺れる、金色の髪。
太陽の光に照らされそれは海の中でさらに冴えて輝いて。
さしずめ、海の太陽の様だ。
突如、金色の髪が水面に浮かび上がる。
頭を振って水を飛ばし、俺の姿を見つけて手を振る。
「オヤジも来いよ!!」
10年間、あえなくて、やっと出会えた、俺の息子。
俺につっかかってきては泣いてばかりいたこいつは、10年の間に立派な青年に成長していた。
自分と同じ様に知らない世界に放り込まれ、自分の運命を知りつつもなお、俺を救おうと
剣を振るってくれたこいつ。
夢の存在として消えたこいつを2年かけて探し出した。
俺の太陽。ティーダ。
海に飛び込みティーダの元へと水を掻き分ける。俺が泳ぎだすとティーダはわざとらしく
逃げるように水の中に潜り込んだ。
ティーダの腕をつかみ、抱き寄せる。
やめろよ、と口が動くが、瞳は笑っている。
そのまま口づければ、海の様に透き通った蒼い瞳が閉じられる。
輝き続ける髪に指を絡ませると、くすぐったそうに頭を動かす。
ティーダを抱き締めたまま浮上し、また頭を振って水滴を払うティーダに再び口付けた。
「・・・・・どうしたッスか、オヤジ」
俺の肩に腕を回してティーダは言う。
「・・・・・別に」
「言っとくけど俺、海でエッチすんの嫌だからね。中に海水入ると後で痛いから」
前に海でやった後に腹を下したのをまだ気にしているティーダに釘をさされ、
うっと唸る。
「・・・・・・ベッドの上なら、構わないけど」
そういって舌を出すティーダの発言に不覚ながら鼻血が出そうになる。
「ね・・・・・・もう1回・・・キスしよ?」
肩に回した腕に力を入れて、ティーダは顔を近づける。
言われるままに俺もその唇に口付ける。
「おい、そこのバカップル!!」
背後の叫び声に2人して振り返ると、真紅の着物を纏った男が見える。
「今いいとこなんだ。邪魔すんなアーロン!!」
せっかくのティーダとの甘いひと時を邪魔した男に叫ぶと、ティーダがくすくすと笑った。
「あーそうかい。じゃあお前らの昼飯は抜きって事でブラスカに言うからな」
「あー!!それはまずいッス!!」
そう言うなり俺の腕からすり抜けてアーロンの立つ岸まで泳ぐ。
「おいティーダ!俺よりメシかよ!!」
「オヤジも早く来ないとメシなしッスよ!!」
アーロンは言い出したら止まらないから、と。
良くわかってんじゃねーか。俺も岸で待っていてくれるアーロンの気が変わらないうちに、
泳ぎだした。
昼飯の後は、リビングで4人でごろごろして過ごすのが日課になっている。
アーロンの入れた紅茶に、アーロンの焼いた菓子を口に、ゆっくりと過ごす。
「しかしまあ、アーロンの入れた紅茶は格別に美味しいねえ」
「ほんと!昔から上手かったよなあ」
「そうか?」
アーロンは褒められるとすぐ顔に出るもんだから。照れくさそうに笑ってる。
俺達が旅をしてた頃から料理担当だったし、それから10年はティーダと暮らしてたんだし、
料理の腕だってブラスカとひけを取らないはずだ。
奴の作る菓子だって、こんなに美味い。
「オヤジ。食いすぎッス。ひとりで全部食うなよ!」
「うっせ!こーいうのはな、早い者勝ちなんだよ」
気が付けば残り何枚ほどしか残っていなかった皿を見て食いすぎかと思ったが、ここで素直に
引き下がっちゃあ、男がすたるってもんだぜ。(?)
「あせるな。まだたくさんある」
アーロンが持ってきた新しい皿の上にはどっさりの菓子。
「わーい♪」
両手でもってぱりぱり食う姿は小動物のようで。
「ティーダ君、口のまわりに粉がいっぱい」
そういってブラスカはティーダの口元に付いている粉を指先で払う。
「「!」」
「ありがとブラスカさん」
ティーダは俺達の驚きなんか知ったこっちゃないと言わんばかりにTVをみつめている。
ブラスカに視線を送るとしてやったりの顔。
「ブラスカ!人のガキに手ェ出すんじゃねえ!」
ムカついて叫ぶとブラスカは何事もないように紅茶をすする。
「何言ってるの。子供は大事にしなくちゃ」
ブラスカはある意味一番腹黒い奴だ。アーロンとデキてるのは知っているが、きっといつかティーダにも
手を出すに違いねえ。
「ティーダには絶対に手ェ出すんじゃねーぞ」
「はいはいわかってますとも。ねえアーロン、紅茶のおかわりあるかい?」
・・・・軽く受けながすんじゃねえ。
でも呼ばれたアーロンの顔を見て、軽く安堵が浮かぶ。
アーロンも怒っていたから。
「・・・・・・自分でやれそのくらい」
それだけ言って、部屋へ戻ろうとするアーロンの後を、慌てたブラスカが追いかけていく。
ティーダの視線はTVの中。
「おい」
「なんだよオヤジ」
「・・・折角人がお前の心配してやってるんだからな、もう少しだな・・・」
「大丈夫だよ。ブラスカさんアーロンにぞっこんだもん。前、死ぬ程アーロンへの愛情の深さを
語ってくれたし。ただの惚気話でちょっと退屈したけど」
パリパリと粉を膝に落としながらティーダは俺の方を向いて言う。
「そりゃあそうだけど・・・・」
「だから大丈夫だし」
でもやっぱし、好きな奴にちょっかい出してくる奴は許せない。
「それよりさ・・・2人きりだぜ、今」
菓子を食べ終わって満足したのか、ティーダは俺の膝の上にちょこんと乗っかってくる。
「ちゅうしてちゅう〜」
粉のついた口元を無理矢理押し付けてくる。
仕方がないから、その口元の粉を舌で舐めとってやった後、それをティーダの口内に差し込む。
「・・・ん・・・ふ・・・」
息継ぎの合間に零れる吐息に、背筋を電流が走る。
抱きたい衝動に駆られて、ティーダをソファーの上に押し倒した。
「・・・いいか?」
「今更何いってんスか。遠慮なんかするタチじゃねっしょ?」
「いや、そうじゃなくて、ベッドの上がいいんだろう?」
そういった俺に、ティーダは顔を真っ赤にして。
「・・・・アンタ、よく俺の言った事覚えてるよな」
「ったりめえだ。俺ぁあん時鼻血拭きそうなくらい興奮したんだからな」
ティーダ。俺の太陽。お前の言った言葉のひとつひとつ。
決して忘れるものか。
「・・・・・・好きだ、ティーダ」
「・・・俺も・・・大好き」
太陽の様な優しい表情を浮かべたティーダに、俺はまたひとつ、キスを降らせた。
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